馬搬

 馬搬とは、伐採した樹木を馬で牽いて搬出することです。地駄曳きともいいます。

 

 機械化が進む前は、重いものを運ぶ手だてといえば、人力やコロの他は、牛馬と川しかありませんでしたから、馬搬はごく一般的でした。が、その後、林業の大規模化、機械化に伴い、衰退していきます。
 ただし、機械と違って地面をあまり傷めない、林内に幅広い道を設けないですむ、残存木保護がしやすいといった実際上のメリットもあり、林内からトラック道路までの搬出では経済的にも機械より適する場合もあるということで、細々とは継続してきており、今日では復活の兆しもあるようです。
 日本では北海道、東北、九州等で行われており、イギリスやスウェーデンでも行われています。興味深いことに、石油燃料で動くクレーンを備えた馬そりといったものも存在します。

 庭の奧にある木を切りたいんだけれど、建物や庭石、オブジェがあって、搬出のためのトラックや重機が入れない。
 レンガや石の散策路、苔や芝生をトラックや重機に踏ませたくない。
トラックや重機を入れるためにせっかくの植栽を掘り返して、また植え戻すのはやりたくない。
 養生のためにクレーンで鉄板を敷くのは大事だし、鉄板自体が芝や苔、敷石を傷めやしないか・・・かといって、短く玉切りして、人がひとつずつ抱えて搬出すのでは能率が悪すぎ、人工(にんく)がかかりすぎる・・・といった場合や、
 エコイベントとして里山・森林の間伐・整備をしたいが、石油燃料の使用はできるだけ控えたい、せっかくの下生えをダメにしてしまう重機は入れたくない・・・といった場合にいかがでしょうか。


 小学生中学年ぐらい以上のかたでしたら、実際に作業していただくことも可能です。
 
 ポニーが歩き、木を引きずるわけですから、地面へのダメージがゼロとはいきません。しかし、蹄鉄も履いていませんし、蹄の接地圧は普通の靴を履いた人間の倍ぐらいですから、ハイヒールの踵と変わりません。
 重機に比べればはるかに地面に優しいのです。 
 引きずられる木によるダメージは、木を短く軽く切る、前方の角を野菜の煮物の「面取り」のように落とす等の対策で軽減できます。養生シートやゴムなどで保護した上を引っ張らせることも可能です。重機のための鉄板はそれ自体、クレーンがないと敷けませんが、
 シートやゴムなら比較的簡単、安価です。通路の幅と転覆防止の兼ね合いがありますが、苔や柔らかい敷き石など、特に保護が必要な場合は、台車を使用することも可能です。
 
 軽トラの幅は約1.5m。小型のグラップル(モノを掴むアームを持つ履帯つき重機)ですと約2mあります。
 左右にゆとりも必要ですから、人間用の散策路、遊歩道はなかなか通れません。
 ポニーの幅は約60cm。足元はもっとスリムです。狭いところの通り抜けは得意です。カーブでは引きずられる丸太が内側を通りますから60cmではやや不足しますが、幅90cmあれば、よほど長いままの材を引かせるのでなければ足りるでしょう。
 整備された道に限りません。埋もれた岩の頭が出ている、切り株がある、けれど全部掘り返すまではしたくない、すると軽トラが入れない、というような現場にも対応可能です。落ち葉が厚く溜まっていて軽トラがスタックしそう、というような現場にも、ある程度対応可能です。
 
 おはぎの場合は絶対的なサイズが小さいので、牽引力でいえば、機械はむろんのこと、大型の輓馬とも比較になりません。
 とはいえ、馬は馬ですから、大人数人分の力はあります。具体的には、成人男性が片端なら持ち上げられる、転がせば動かせる、といった丸太を引くことができます。丸太が細くて軽い場合、3本まで一度に引くことが可能です。
 丸太の重さは木の種類によって異なりますし、乾燥度も関係しますが、おおまかに言って、直径25cm、長さ2mぐらいの木まで引けます。直径15cm、長さ2mならば3本まとめて引けます。太い木は短く切れば引けます。直径50~60cmあるならば、長さも同じぐらいにする必要があります。
 他方、小柄であるメリットもあります。おおまかに、人が歩けるだけの通路があればポニーも通れます。ポニーの全長は約1.5m、胴体の長さは1mほど。馬ですからその場で回転できます。その際、重機のように地面がかき回されることもありません。人間用の作業スペース内で動くことができます。

 ポニーが引けないほど重い木が少数ある場合に切断する、伐採に危険がともなわない小径木の伐倒は作業可能ですが、馬搬が従となってしまうような大量の玉切りや、危険を伴う立木の伐採作業は致しかねます。
 馬を遊ばせておくのは作業効率から言ってももったいありませんので大量のチェンソー作業がある場合、専門の作業員のかたにお願いすることをお勧めします。
 また、トラック等へのトラック等への「持ち上げ、積み込み」作業、材同士の「積み重ね」作業も馬搬には含まれません。

 実際の馬搬の段取りは、
1.ポニーを材のそばに連れて行き、回転させ、後退させる。
2.「かんぬき」のクサビを材に打ち込む。
3.材を引いて、終了地点まで歩く。
4.「かんぬき」のクサビを外す。
5.ポニーを材のそばに・・・

 という具合になります。
 終了地点から材のあるところへ戻る際、鉄の「かんぬき」およびそれに接続する「どっこい」という横木は、通常は引きずって行きます。これによる地面の傷みを避ける場合には外すことも可能ですが、付け外しに時間を要するぶん、作業効率は低下いたします。

 

 ブルーシートを折って敷いただけでもある程度の養生効果が見込めます。斜路の西洋芝はほとんど傷みませんでした。ガサガサ、バリバリとうるさいところでも臆さず踏んで歩くように調教してあります。

 一輪車のタイヤ2ケを16mm全ネジで繋いでいます。この現場は道幅狭く、それに合わせたトレッドでは道の凹凸に耐えるに不足で転覆がちで使用を中止しました。

 

が、概念はお判りいただけるかと思います。

 

 平滑な舗装路で大きめのトレッドが取れ、効率を犠牲にしてよければ、地面へのダメージを最小化するのに有効でしょう。

 むろん、4輪式も可能です。

 馬搬に使う「かんぬき」という鉄製の道具です。左に見えるクサビを丸太の木口に打ち込んで引き、引き終えたら叩いて外します。ロープやワイヤーロープを丸太に巻くより作業が早く安全です。地面に擦れて擦り切れる心配もありません。